山梨に行く機会があったので、以前から気になっていた「久保田一竹美術館」に寄ってみました。
口コミで“異世界みたい”と聞いていましたが、実際に行ってみると、想像の斜めはるか上!!!「美術館」というより、もう他国のような空間でした!
久保田一竹美術館 https://thekubotacollection.com/museum
📍所在地:山梨県南都留郡富士河口湖町河口2255

パンフレットによると、インドの古城の門を幾重にも組み合わせたものだそう。
この美術館は、染織家 久保田一竹(1917-2003)が、自身の作品展示と創作環境を兼ねて設立した施設。
湖畔・富士山を望む立地に、彼の世界観そのままに建てられています。
展示の中心となるのは、“辻が花染め”の技法を現代に再構築した「一竹辻が花」という染織作品群。
作品の写真撮影は禁止されていたため撮っていませんが、間近で見るとその色・素材・構成に圧倒されました。
染色工芸家 久保田一竹とは
14歳の頃(修行時代)
東京・神田で生まれ、14歳で手描き友禅の工房に弟子入り。
ここで染料や布の扱い、色の重ね方など、染色の基礎を学ぶ。
→ この時期は「職人」としての修行期。
20歳ごろ〜(“辻が花”との出会い)
室町〜江戸初期に存在した辻が花染めの断片を美術館で見て衝撃を受ける。
「この失われた技法を再現したい」と独自の研究を始める。
→ つまり、「友禅から辻が花へ」転向。
40歳以降(研究・創作期)
シベリア抑留などを経て帰国後、本格的に“辻が花”再現の研究を再開。
試行錯誤の末に生まれたのが、「一竹辻が花」という独自技法。
→ 絞り染め、グラデーション染色、金銀箔、刺繍などを融合した現代的総合染色アート。
🏛️ 建築と空間構成
建物の内外壁はすべて琉球石灰岩(サンゴなどの堆積岩)でできており、
自然光の当たり方によって、柔らかく色味が変化します。
素材の質感が空間そのものをデザインしているような建築でした。
「光を吸い込むような琉球石灰岩の壁」

「森と溶け合うような庭園」

装飾というより、構造そのものがデザインになっている。
庭園も自然と一体化していて、全体が「作品を包む器」のようでした。
久保田一竹はこの地に住み、寝泊まりしながら制作していたそうです。
「環境を含めた世界観の設計」に全力を注ぐ姿勢には、
制作環境の整え方そのものも“デザイン”の一部だと感じました。
🎨 作品と色彩表現
展示されているのは、久保田一竹氏による「一竹辻が花」。
室町時代の「辻が花染め」を現代的に再構築した作品です。
辻が花染めとは:絞り染めに手描きや箔押しを組み合わせた、高度な染色技法。
室町時代より庶民の小袖として親しまれてきましたが、安土桃山時代にその栄華を迎え、江戸時代の初期にその姿を消してしまいます。その理由は、より絵画的な細かい描写のできる友禅染の技法が考案されたことによるものとする説が有力です。
故に、「辻が花」は幻の染め物または、「幻の花」などと言われているそうです。
技法の動画はこちらのリンクにて。Tsujigahana technique
久保田氏は20歳の頃にこの技法に出会い、戦争・抑留を経て40歳で本格的に研究を再開。
20年以上の試行錯誤を経て完成させたといいます。
撮影禁止だったため展示作品の写真は撮れませんでしたが、
下記のリンクにそれぞれの作品が掲載されています 。
展示を間近で見ると、糸の一本一本が非常に細かく、
一つ作るだけでも気が遠くなるような根気の要る作業だと感じました。
このような偉業を成し遂げるには、細部への愛情と、同じだけの忍耐が必要なのだと深く思わされました。





