「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」へ行ってきました。

奈良監獄ミュージアムは、赤レンガの重要文化財建築を見るだけでなく、「自由」「規律」「更生」「保存と活用」について考えながら歩く場所です。

もともとは旧奈良監獄として使われていた建物を活用したミュージアムです。監獄と聞くと、重くて暗い場所を想像していたのですが、実際に行ってみると入口からかなりおしゃれ。

赤レンガの建物、シンプルな案内サイン、余白のある導線、そして星野リゾートらしい整え方が合わさって、「監獄を見に来た」というより、雰囲気の良い建築ミュージアムに入っていくような感覚でした。
入口ではスタッフのお姉さんが、いろんな角度から集合写真を撮ってくれました。

しかも、途中にある矢印の看板までシンプルでおしゃれ。

「ここまで削ぎ落とすんだ」と思うくらい控えめなサインなのに、ちゃんと雰囲気に合っていました。
ハヴィランド・システム

奈良監獄は、中央看守所から放射状に収容棟が並ぶ「ハヴィランド・システム」を用いていると公式サイトで説明されています。中央看守所見学は別途予約が必要ですが、予約が取れなかったので今回は見れませんでした。
館内MAPはこちら
保存エリアの収容棟へ
最初に入ったのは、第三寮(保存エリアの収容棟)です。

中に入ると、分厚い壁、重そうなドア、ずらっと並ぶ部屋が目に入ります。
2階建て煉瓦造の第三寮には各階48室、計96室の独居房があります。

脱獄する映画をいくつか見てきたのですが、実物の扉や鉄格子を見ると、「こんな分厚くて固い鉄格子、どうやって脱獄するんやろ」と思ってしまいました。(映画好きの妄想。)



部屋の中の窓
ドアには小さな窓がいくつかあり、上から網がついた細横長の窓・鉄格子がついた窓・四角い窓があります。
近くで見ると、木の厚み、金具の古さ、鉄格子の存在感がかなり強いです。
ここで中の様子を監視したり物を渡したりしていたんだなと感じます。
汚物を運ぶ場所や浴室も見られる
収容棟の中では、トイレの汚物を運ぶための場所も見ることができました。

明治時代の衛生や生活の管理が垣間見れます。
浴室も見られました。

監獄なのに洋風でおしゃれ。廊下と螺旋階段が良すぎる
奈良監獄ミュージアムで意外だったのは、建物としての雰囲気がとても良かったことです。
廊下や螺旋階段は、どこか洋風で、かなり絵になります。
監獄を改装しているとはいえ、おしゃれすぎる。正直、「こんなところ住んでみたい」と思うくらいでした。
もちろん、独房の中に入れられるのは嫌ですが。笑
それくらい、空間としては魅力がありました。赤レンガ、アーチ状の窓、長く続く廊下、少し古びた壁。監獄という重い背景を持ちながら、建築としては見ていて飽きません。
「監獄だった場所を美しいと思っていいのか」という少し不思議な感覚もありました。でも、その違和感も含めて、このミュージアムの面白さだと思います。
A棟「歴史と建築」
奈良監獄が生まれた背景
展示を見ていて最初に驚いたのは、奈良監獄が1908年(明治41年)に建設されたこと。そして2017年まで、109年間使い続けられたこと。
その時代、日本は西洋列強との不平等条約改正を進めようとしていました。そのために必要だったのが「近代的な国家」としての証。その一つが、近代的な刑罰制度でした。
江戸時代までの刑罰は、死刑や身体刑が中心。

でも西洋の近代的な思想では、刑罰の目的は「罰を与えること」ではなく「受刑者を改善し、社会に戻すこと」でした。

この理念の転換が、奈良監獄の建設につながったわけです。
赤レンガの監獄がおしゃれな理由
それは、この建物が「理性的な設計」に基づいているから、かもしれません。

奈良監獄の設計者・山下啓次郎は、ヨーロッパとアメリカの先進的な監獄を視察していました。フィラデルフィア監獄、ペントンヴィル監獄、ベルギーのルーヴァン監獄など、当時の最先端の施設を見て学びました。

特に学んだのが「放射状計画」という建築設計。中央の監視塔から複数の棟が放射状に広がることで、少ない人数で効率的に監視できる。これが、合理的であると同時に、建築としても美しく見える理由のようです。
展示で見た建築模型から、この思想がはっきり読み取れました。ただ受刑者を閉じ込めるだけでなく、「科学的で人道的な」システムを実装しようとした姿勢が感じられます。
「監獄則」という新しい法律
1872年に日本政府が制定した「監獄則」という規則も興味深いものでした。これは単なる規則ではなく、新しい刑罰理念を体現したものです。
従来の「報復としての罰」から、「改善と更生を目指す矯正」へ。その理念が、建築と制度の両方に反映されていました。

建築が語る歴史
見ていて思ったのは、おしゃれだと感じた赤レンガの建物も、汚物を運ぶ場所も、浴室も、すべてが「人間をいかに管理し、改善するか」という思想のもとに設計されていたということ。

明治時代の日本人が、西洋の先進的な思想をいかに学び、翻訳し、実装していったのか。その軌跡が、この建物に刻まれていました。
A棟の展示内容は、見ているとかなり充実しています。パネル、建築模型、歴史の説明、各国の監獄との比較。実際の設計図なども展示されており、見るだけで相当な時間が必要です。


個人的に一番興味あったのは煉瓦(れんが)です。
煉瓦職人の指導のもと囚人たちに作業をさせていたらしく、関わった囚人たちは当時で15万人だそうです。大規模すぎる!



D棟のカフェがきれい。レンガカレーパンがかなりおいしい
見学の途中、D棟のカフェにも行きました。

カフェでは、レンガカレーパン、アイスカフェオレ、ほうじ茶アイスをいただきました。

レンガカレーパンは、名前の通りレンガのような四角い形。外側がザクっとしていて、中のお肉が分厚く、とてもおいしかったです。
カフェオレアイスもおいしく、ほうじ茶アイスもいただきました。見学の途中で少し休憩するにはちょうどよかったです。
お土産屋さんはシュールで大人男性向けな雰囲気
お土産屋さんも見てきました。

ショップは、全体的にかなりシュールで、大人男性向けな雰囲気がありました。
Tシャツ、服、スリッパ、傘、文具、お菓子などが並んでいましたが、かわいい観光地のお土産というより、監獄モチーフを大人っぽく、少しブラックユーモアのある方向に振っている印象です。
特に、鍵や鉄格子のモチーフ、NARA PRISON MUSEUMのロゴを使ったグッズは、かなり世界観がはっきりしていました。

個人的には、「家族みんなでかわいいお土産を選ぶ」というより、「このデザイン好きな人には刺さるだろうな」というショップでした。
C棟「監獄とアート」へ。青い部屋でぼーっとした
C棟では、監獄とアートをテーマにした展示がありました。

特に印象に残ったのは、青い光に包まれた部屋です。

海の中にいるような感覚で、落ち着くな、としばらくぼーっとしました。
この部屋は、二人組のアートユニット「キュンチョメ」による展示で、「海の中に祈りを溶かす」というコンセプトで作られているとのことでした。
花輪和一さんの漫画展示も印象的
C棟では、漫画家・花輪和一さんの展示もありました。

花輪和一さんは、監獄内での実体験をもとにした漫画でも知られている漫画家です。展示では、漫画や関連資料が飾られていました。
詳しく知りたい人は、花輪和一さんの作品を読んでから、または読んだあとにこの展示を見ると、より深く感じられそうです。

実際に収容されていた人や、その家族の手紙も展示されていて、そこはかなり感情移入しました。読んでいて泣きそうになるくらいでした。

建物やアートを見ていると、どうしても「かっこいい」「おしゃれ」という感想が先に出てきます。でも、手紙の展示を見ると、ここは人の人生があった場所なんだと引き戻されます。
そのバランスが、このミュージアムの印象を深くしていると思いました。
B棟「規律と暮らし」
B棟「規律と暮らし」では、監獄の中での生活について考える展示がありました。

見ていて思ったのは、ある意味では僧侶の生活に近いところもあるのかもしれない、ということです。
以前、永平寺に行ったとき、修行僧に割り当てられる坐禅場所について知る機会がありました。そこは寝泊まりもする場所で、1畳ほどの場所に布団を敷いて寝るそうで。
もちろん、刑務所での生活と修行僧の生活を同じものとして語ることはできません。背景も目的もまったく違います。
ただ、限られた空間、決められた時間、規律のある生活という点では、ふと永平寺で見た修行僧の生活を思い出しました。
規律を守り、更生をする為には僧侶の生活を真似てみることがいいかもしれません。
まとめ
奈良監獄ミュージアムは、行く前に想像していたよりもずっと洗練されていて、建築としても見応えのある場所でした。
赤レンガ建築の美しさに惹かれる一方で、収容棟の扉や鉄格子を目にすると、ここが監獄だった現実に引き戻されます。青いアートの部屋で少し気持ちが落ち着いたと思ったら、手紙の展示で胸が詰まる。そんなふうに、感情が何度も揺さぶられる場所でした。
同時に、ここが人を管理し、更生を支えるために考え抜かれた場所だったことも伝わってきます。
おしゃれで、かっこよくて、でも決して軽くはない。
そのギャップこそが、奈良監獄ミュージアムでいちばん印象に残ったことでした。



